私が鍼灸の勉強を始めて、一番初めに感銘を受けたのが小林詔司先生が構築された積聚治療の治療観でした。直接ご指導いただくにはあまりに初学者だった専門学生の頃は、弟子の先生方の積聚治療の講座を受講しながら、著作や投稿記事を読み、講演があればできるだけ聴講し、放課後もアルバイト先の休憩時間も積聚治療の練習ばかりしていました。卒後は、色々な側面から身体を把握したいと思い別の勉強を始め、テクニック的な意味での積聚治療の勉強を続けることはなかったので、先生から実技指導を受ける機会はないまま、何度か治療をしていただいたことだけが直接の接点でした。
その小林先生が8月3日に80歳で逝去されたと友人から知らされ、ぽっかり穴が空いたような哀しさを感じています。鍼灸に限らず、生き方に影響を受けた方々が私の中で見えない柱のように存在していて、その柱が1つ消えてしまったような感覚です。
専門学校の最終学年の時に、学園祭で先生が講演されました。先生も東洋鍼灸専門学校のご出身ですが、卒後に別の専門学校を設立されているので、母校での講演はとても珍しかったです。打ち上げに参加させてもらい、目の前の席で質問までさせてもらえて恐縮した時のことを今でも覚えています。その時いただいた答えは、当時は理解できませんでしたが、今は少し理解できるようになりました。
積聚治療そのものは続けていませんが、先生が著作や講演の中で発信されていた内容のエッセンスは確実に私の中に残っています。特に、全ての症状の裏には精気の虚があるという考え方、意識(イメージ)を使うことは私の治療のベースになっています。「見えないもの(陰)が存在するから見えるもの(陽)が存在することを意識する」というお話からは、治療に限らず生活すべてに影響する新しい視点をいただけました。
また私が中健次郎先生の気功を通じて「気」を学び始めることができたのも、積聚会の先輩のアドバイスがきっかけでしたし、講習会を通じて、クラスや学年、学校の枠を超えて今でも関係が続いている鍼灸師仲間もできました。
振り返ると、積聚治療との出会いの影響はとても大きかったと感じています。
仙人のような雰囲気の先生で、昨年末にも著作を出されて、いつまでもお元気だと勝手に思っていたので、本当に寂しいです。心からご冥福をお祈りします。
先生と、先生&積聚治療ファンのみなさんと。