ドイツから講師が来日される貴重な機会でした。
悩みを持つ方が多い「睡眠障害」も講演テーマの1つでしたので、そのことにも触れながら感想を書いておきたいと思います。
アントロポゾフィー医学
アントロポゾフィー医学は、シュタイナー博士の哲学「人智学」を基盤にした医学です。私も理解しきれていないので、エッセンス的な文章をwikipediaから抜粋すると
- 人間の存在とは感覚的な存在と感覚を超越した世界が統合されている存在である
- 人間の持っている通常の五感では、事物の表面しか捉えることができない
- 人間を物質(肉体)のレベル、生命のレベル、感情のレベル、精神のレベルという4つの構成要素で考え、そのバランスが崩れると病気になるとする
といった部分がわかりやすいでしょうか。人間を、目で見て触れられる物質としてだけでは捉えていないというのが、今の日本の医療には(ほぼ)無い発想です。
「人智学」は医学にとどまらず、教育、芸術、農業など広い分野に影響を与えています。日本では俳優の斎藤工さんがシュタイナー学校卒業だそうですね、今回先輩から聞いて知りました。
アントロポゾフィーという言葉自体も今回初めて知ったのですが、ベースとなるシュタイナーの医学・看護学については8年くらい前に本を読んだことがありました。その時は「ああ、私が求めていた医療はこれだ。こんな医療を受けたり、医学を学んだりしたい」と思うと同時に「今の日本にこんな手間のかかるやり方が取り入れられるわけがないし、鍼灸師が1人で学んだところで活用できるものでもない」とも感じ、理想郷・夢物語として心にしまいました。
たまたま前日に完成した名刺がアントロポゾフィーっぽい色彩だねと言われたのも不思議です。
睡眠障害
ヨーロッパでは4人に1人が向精神薬・睡眠薬を利用し、5人に1人がうつなどの問題を抱えているそうです。今の日本では、病院で眠れないと訴えたら、睡眠薬・睡眠導入剤が出され、生活のアドバイスをもらう程度です。
アントロポゾフィー医学での説明は、全く違いました。(いつものごとく私の頭で解釈した内容で聞き漏らしもありますので、正確なところは書籍等で学んでください)。睡眠に問題があった場合に、その原因を、以下のように分け、それぞれ対策を考えます。
- 物質的な原因:騒音、照明、電磁波など多岐に渡る
- 時間・プロセスの原因:日中を活動的に過ごしていれば夜は疲れて眠れる。うつの人は、朝起きた時点で憂鬱、夜は無事1日が終わったことで安心して、そこから生きる気力がわいてくるので眠れない。堂々巡りの思考が止まらない時の対処。
- 魂の原因:人間関係に問題を抱えている。常に何かの心配・不安を抱えている。健康的な心配と、不健康な心配には違いがある。不健康な心配を持たないように自己教育が必要。
- 自我の領域:本当の睡眠障害の原因はこれ。自分を信じられない、自己嫌悪といった感情で、麻薬などで自分を忘れようとしてしまう。
それぞれにもっと詳細な説明があったのですが・・・少なくとも、ただ薬を出されるのとは全く違う次元で問題と向き合っていることは一目瞭然です。そして私はこれが本質だと思っています。
子供の睡眠
私が非常に惹きつけられたのは、「子供と大人の眠りは違う」という話です。詳細は複雑なので省略しますが(興味ある方は個人的に・・・)、子供から有害な情報を切り離すこと、周囲の大人が誠実であることが、いかに大切かがわかる内容でした。子供は単に大人の小さい版ではないということを、私たち大人が理解しなければいけないですね。
私が現代の子供に治療の必要性を強く感じているのは、こういった、肉体レベル以外の面での危機を感じているからかもしれません。健康に見えてもお腹・手足から状態を見るとあまり良くない子が多いのですが、ほんの少し方向性の手助けをするだけで良い方向に変化していきます。大人になって影響が出始める前にできることがたくさんあります。また、大人でさえ混乱する世の中のスピード感・多様性の中で、アントロポゾフィー的な視点を持った大人が周囲にいるというのも、子供の救いになることがあるように思いました。
鍼灸マッサージ師として
アントロポゾフィーは、基本的には医師・看護師・各種療法士が学んで医療の現場で活かしていくものだと感じましたが、講演の中でも「(例えば)鍼灸がアントロポゾフィー的であるためにはどうしたらいいか」という質問に対する回答もありました。その答えは鍼灸師への回答というよりは一般的な代替医療全体に対するものでしたが、とても深く、心を動かされました。
医療の中で鍼灸の本当の良さが理解されるには、このようなアントロポゾフィーやオステオパシーのように、全人的な医療でなければ困難だと思っています。今の医療システムに入ろうとしても、鍼灸で一番大切な、感覚的なところやさらに上の次元のところが削ぎ落とされてしまうと感じます。せめて、エーテル体くらいまでは共通認識として無いとなあ、と・・・。また、医療者だけではなく、患者さん側にもその哲学が広まっていなければ意味がなく、それもまた難しい問題ですね。「上医は国を医す」というのはこういうことなのかもと感じました。
今の私が鍼灸マッサージ師個人としてできることは、
- アントロポゾフィー的な心構えで治療をすること
- 全人的医療の存在について少しでも患者さんや周囲の人たちに知ってもらうこと
- 結果として健康に対する自立した意識を持ってもらうこと
かな・・・など、講演後から今もずっと考えています。具体的な行動が何かできたらいいなと。
会場に案内冊子があり、何部かいただいてきましたので、院内においておきます。ぜひ手にとってみてください。
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